戦前でしょうか・・・
まだそれほど昔ではない時代。
あるところに、子だくさんの若い女性がいました。
ざっと視えるだけで、十代前半の子供を筆頭に5人くらい。
貧しい生活のやりくりは大変でしたが、身分制度?お家制度?の厳しい規律の中にも、それなりの幸せを感じて過ごしていました。
しかし、お姑さんかお舅さんが病気になってから、生活は一気に窮乏。
そんな中に迎えた女性のお産は、誰もが言葉にせずとも暗黙の了解がありました。
お産婆さんに頼めば、赤ちゃんを産湯に沈めて、簡単に「無かったお産」にしてもらえる・・・そんな時代でした。
誰もが固唾を飲んでその瞬間を待っていましたが・・・。
産まれてきた赤ん坊は『男の子』だったので、予定に反して赤ん坊は命をつなぐことができました。
女性の子供は、女の子ばかりだったのです。
いや・・・正確には、一人だけいた家督を継ぐべき男の子が、実はちょっと不具合をかかえていました。
現代の医学で言えば、おそらく先天性の遺伝子疾患なのでしょう。
色白と言うには白すぎる肌、発達の遅れ・・・
それでも女の子の中のたった一人の男の子として、母親である女性にとっては当たり前に我が子の一人として、それまで大事に育てられてきたのです。
しかし。
健康な男の子が産まれたことで、家の中に微妙な空気がただよいはじめました。
乳飲み子がどんどん成長し、健常さがハッキリしてくるのと比例して、何かと長男のひ弱さが浮き彫りになっていきます。
女性は舅姑の微妙な空気を察しつつ、それが絶対に言葉として表に出ることのないよう、完璧な「嫁」を演じました。
しかし、その時は確実に近づいてきました。
ある晩、赤子の身体を清めていると、夫が長男の手を引いて外に出ようとしているのを見つけました。
もう外は薄暗い。
女性は、母親の勘で必死に二人を引き戻し、夫に懇願しました。
夫は
「一番大事なのは、親だ。このままでは薬どころか、年老いた両親に満足な食事もとらせてあげられない」
と言う趣旨の話をしました。
「では私の分を。私は食べなくても」
そう懇願しても、
「赤子に飲ませるお乳が出なくなってはいけない。家督と継ぐ大事な子だ」
飢えた両親は、嫁である女性に容赦なく冷たい言葉を投げるのでした。
女性の立場では、もう限界がありました。
せめて。
せめて私が連れて行く。
夫は黙って女性に縄を手渡し、裏山に行くよう目で合図をしたのでした。
───続く。
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読んでいて涙が出てきました。
この世に必要ない子なんていないのに。
続きが気になります…!
イオンさんのことだから、きっと心温まる展開になることを期待して